大阪地方裁判所 平成6年(ワ)8634号 判決 1997年3月13日
原告
山本弘義
ほか三名
被告
興亜火災海上保険株式会社
ほか一名
主文
一 平成六年(ワ)第八六三四号事件及び同年(ワ)第一一二五二号事件について
被告株式会社城東運輸及び同興亜火災海上保険株式会社は、連帯して、原告山本弘義、同山本勝子に対し、それぞれ金一四六七万六二〇二円及び被告株式会社城東運輸につきこれに対する平成六年二月八日から、被告興亜火災海上保険株式会社につきこれに対する平成六年九月一三日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 平成七年(ワ)第八二〇二号事件について
1 被告株式会社城東運輸は、原告冬田木儀、同トメコに対し、それぞれ金一五二一万六二〇二円及びこれに対する平成六年二月八日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告興亜火災海上保険株式会社は、原告冬田木儀、同トメコに対し、被告株式会社城東運輸と連帯して、それぞれ前項の金員のうち金一五〇〇万円及びこれに対する平成六年一〇月二二日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用中、原告らに生じた部分と被告らに生じた部分については、これを二分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とし、補助参加により生じた部分は、これを二分し、その一を補助参加人らの、その余を被告興亜火災海上保険株式会社の負担とする。
五 この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 平成六年(ワ)第八六三四号事件
被告興亜火災海上保険株式会社は、原告山本弘義、同山本勝子に対し、それぞ三〇〇〇万円及びこれに対する平成六年九月一三日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 平成六年(ワ)第一一二五二号事件
被告株式会社城東運輸は、原告山本弘義、同山本勝子に対し、それぞれ二六〇〇万円及びこれに対する平成六年二月八日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(なお、右金額は、請求原因記載の金額を超えるものであるが、そのままにしておく。)。
三 平成七年(ワ)第八二〇二号事件
1 被告株式会社城東運輸は、原告冬田木儀、同トメコに対し、それぞれ二六〇五万九六九四円及びこれに対する平成六年二月八日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告興亜火災海上保険株式会社は、原告冬田木儀、同トメコに対し、被告株式会社城東運輸と連帯して、それぞれ前項の金員のうち一五〇〇万円及びこれに対する平成六年一〇月二二日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告株式会社城東運輸(以下「被告城東運輸」という。)の従業員であつた冬田孝雄(以下「亡孝雄」という。)が同被告保有の車両を運転中、他の車両に追突し、亡孝雄の運転車両に同乗していた妻の冬田知子(以下「亡知子」という。)、子供の冬田翔馬(以下「亡翔馬」という。)とともに亡孝雄も死亡した事故に関し、亡孝雄と亡知子は同時死亡し、その後亡翔馬が死亡したとして、亡翔馬の祖父母らが、被告城東運輸に対しては自賠法三条、民法七一五条に基づき、被告興亜火災海上保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)に対しては、自賠法一六条に基づき損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等(証拠によつて認定する場合は証拠を摘示する。)
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 日時 平成六年二月八日午前五時四五分ころ
(二) 場所 山口県下関市大字清水 中国自動車道下り五二七キロポスト付近
(三) 関係車両 亡孝雄運転の被告城東運輸が保有する大型貨物自動車(大分一一か六六九八・以下「被告車両」という。)
訴外添島一成(以下「訴外添島」という。)運転の大型貨物自動車(以下「訴外車両」という。)
(四) 事故態様等 亡孝雄運転の被告車両が、訴外添島運転の訴外車両に追突し(以下「本件事故」という。)、追突の際の衝撃で亡知子、亡翔馬(以下、両名を併せて「亡知子ら」という。)を路面に落下させ、同人らが頭蓋骨粉砕骨折による脳挫傷等で死亡するとともに、亡孝雄も死亡した。
2 自賠責保険
本件事故当時、被告保険会社は被告城東運輸との間に被告車両につき自賠責保険を締結していた保険者である。
3 相続
原告らは亡翔馬の祖父母である。
なお、原告山本弘義(以下「原告弘義」という。)、同山本勝子(以下「原告勝子」という。)は、亡知子の両親であり、原告冬田木儀(以下「原告木儀」という。)、同冬田トメコ(以下「原告トメコ」という。)は、亡孝雄の両親である(乙四、五)。
4 損害のてん補
損害のうち、被告保険会社から、亡翔馬の治療費として六万九六一〇円がてん補済みである(擬制自白)。
二 争点
1 被告城東運輸の運行供用者責任或いは使用者責任の有無
2 原告らの相続権(同時死亡)の有無
3 混同の有無
4 過失相殺ないし好意同乗による減額の有無(被告城東運輸は少なくとも五割の、同保険会社は四割の減額を主張している。)
5 損害額
第三争点に対する判断
一 被告城東運輸の運行供用者責任或いは使用者責任の有無(争点1)
1 前記争いのない事実等と証拠(甲四、被告城東運輸代表者、弁論全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 被告城東運輸は、貨物自動車運送を業とする会社である。
(二) 被告城東運輸の営業車両の業務運転に際して、亡孝雄が亡知子らを被告車両に同乗させて走行中本件事故が発生し、亡孝雄及び亡知子らは死亡した。
(三) 被告城東運輸(代表者和田利明についても)において、従業員がその家族を営業車両に同乗させて業務運転することを黙認していた。
被告城東運輸は、その営業車両の業務運転に際しては、従業員以外の者の同乗は許しておらず、そのことは被用者である亡孝雄及び亡知子らも十分に認識していた旨主張する。
丙一号証(被告城東運輸代表者作成の陳述書)及び被告城東運輸代表者の供述は、一応右主張に添うものであるが、一方、右各証拠によると、本件事故発生の二か月か三か月前、被告城東運輸の車庫で被告城東運輸代表者は、亡知子らを見かけたことから、亡孝雄が業務運転中に亡知子らを被告城東運輸の営業車両に同乗させているのではないかとの疑いをもつて、亡孝雄に対し、亡知子らを同乗させていないかと尋ねたところ、亡孝雄においてこれを否定すると、ただそれだけで右疑問が解消したとして、それ以上の追及はしなかつたことが認められるのであり、そうだとすると、亡孝雄の同乗を否定する言葉だけで直ちに被告城東運輸代表者の右疑問が解消したとするのは極めて不自然であつて、この不自然な事情に弁論の全趣旨を総合すると、被告城東運輸代表者は、従業員による営業車両の業務運転に際して、その妻子の同乗を黙認していたと認めるのが相当であり、したがつて、被告城東運輸はこれを黙認していたと認められる。
2 以上の認定によると、被告城東運輸は、亡孝雄による営業車両の業務運転中、亡知子らが同乗することを黙認していたものであるから、同被告において、本件事故時の被告車両に対する運行支配と運行利益を有していたものと認めるのが相当であつて、その運行供用者責任を否定することはできない。
二 原告らの相続権(同時死亡)の有無、混同の有無(争点2、3)証拠(乙四・除籍謄本)によると、除籍謄本の記載では、亡孝雄の死亡日時は平成六年二月八日午前八時一二分、亡知子のそれは同日午前五時四五分、亡翔馬のそれは同日午前七時四〇分とされている。すなわち、それによると、死亡の順序は、<1>亡知子、<2>亡翔馬、<3>孝雄となる。
しかし、証拠(甲一の1、2、二、三、乙二、三、六、弁論の全趣旨)によると、亡知子は本件事故時の平成六年二月八日午前五時四五分ころに即死したこと、亡翔馬は本件事故後搬送された山口県下関市立中央病院で、同日午前七時四〇分ころ死亡したことが認められる。そして、右各証拠によれば、亡孝雄が右病院に搬送されたのが同日午前八時ころであり、その時にはすでに死亡していた(瞳孔も拡大していた。)が、即死の可能性もあつたけれども、そうとも断定できなかつたので、担当医師は、亡孝雄の来院時をその死亡時刻としたことが認められる。
以上の事実によると、亡孝雄と亡知子の死亡時についてはその前後が明かではないと認めるのが相当であり、亡飛翔の死亡は右両名の死亡よりは後であつたと認めるのが相当である。
よつて、原告らは、いずれも亡知子、同翔馬の権利義務をそれぞれ四分の一づつ相続したことになる。
なお、被告保険会社は、死亡順序が<1>知子、<2>翔馬、<3>孝雄であつたことを前提にして、原告らの相続した損害賠償請求権は混同によつて消滅した旨主張するが、本件はその前提を異にするうえ、本件事故によつて、亡孝雄及び被告城東運輸が亡知子らに生じた損害の賠償を負担すべき立場になつた場合、亡孝雄及び被告城東運輸が負担すべき債務は不真正連帯債務の関係になり、被告城東運輸関係では、亡知子らについて生じた損害賠償請求権が混同によつて消滅することはないと認められるので、被告保険会社の右主張は理由がない。
三 過失相殺ないし好意同乗による減額の有無(争点4)
1 前記争いのない事実等、右一の1で認定した事実及び証拠(甲四、丁一ないし九、一〇の1ないし3、一一、被告城東運輸代表者、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 亡孝雄は、被告城東運輸で、長距離トラツクの運転業務に従事していた。
(二) 亡孝雄は、被告車両を業務運転して、本件事故の三日前(平成六年二月五日)に大分県で荷物を積み込み、フエリーに乗船、大阪に到着、大阪経由で陸路東京へ向かつた。そして、東京からの帰路、本件事故を起こした。
(三) 亡孝雄は、大分県を出発するに際し、亡知子らを被告車両に同乗させ、亡知子らを亡知子の実家(原告弘義方)で降ろして東京に向かい、再び帰路大阪から同乗させて本件事故を起こした。
(四) 本件事故の原因は、亡孝雄のスピード違反及び脇見運転であつて、本件事故は、専ら亡孝雄の過失によつて生じたものである。
2 以上の認定によると、亡孝雄の過失は、被害者側の過失をして評価されるべきところ、被告城東運輸において、従業員による営業車両の業務運転中、その家族が同乗することを黙認していた事情等と対比して、原告らの減額割合は四割を相当と認める。
四 損害額(争点5)
1 以上の認定事実(争いのない事実等を含む。)を前提とすると、原告らの損害額は次のとおりと認められる(原告らの主張額は、各項目括弧内記載のとおりであり、計算額については円未満を切り捨てる。)。
(一) 知子関係
(1) 逸失利益(原告ら 三四一六万九八九五円・なお、原告弘義、同勝子が三四一六万六八九五円としているのは誤記と認める。) 二九二八万八四八一円
証拠(乙四、丁一二、弁論の全趣旨)によると、亡知子は、昭和四九年八月七日に生まれ、死亡当時、一九歳の女性で、家庭の主婦として家事に従事していた者であることが認められる。
以上の認定によると、亡知子の逸失利益は、当裁判所に顕著な事実である平成四年賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者一八歳から一九歳の平均賃金である年収二〇二万三三〇〇円を算定の基礎とし(原告ら主張のとおり)、生活費控除率は四割とみるのが相当であり、一九歳から一般に就労可能とされる六七歳時までの年数につき、ホフマン方式を採用して中間利息を控除して算出すると、次の計算式のとおり二九二八万八四八一円となる。
二〇二万三三〇〇円×〇・六×二四・一二六=二九二八万八四八一円
(2) 死亡慰藉料(原告ら 二二〇〇万円) 二一〇〇万円
本件に顕れた一切の事情を考慮すると、亡知子の死亡についての慰藉料は、二一〇〇万円が相当である。
(二) 亡翔馬関係
(1) 逸失利益(原告ら 一九六六万八八八一円) 一九六六万八八八一円
証拠(乙四)によると、亡翔馬は、平成五年二月八日に生まれ、死亡当時、一歳の男子であつたことが認められるところ、平成四年賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者一八歳から一九歳の平均賃金が年収二三五万三三〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実であるから、亡翔馬が一八歳に達し、稼働を開始した場合の年収は右額を下まわらないものと認められる。
弁論の全趣旨によると、亡翔馬は、六七歳まで稼働することが可能であり、生活費控除は五割とみるのが相当であるから、ホフマン方式を採用して中間利息(六六年の係数から一七年の係数を差し引いた数値)を控除し、亡翔馬の本件事故当時の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、一九六六万八八八一円となる。
二三五万三三〇〇円×〇・五×(二八・七九三-一二・〇七七)=一九六六万八八八一円
(2) 死亡慰藉料(原告ら 二〇〇〇万円) 二〇〇〇万円
本件に顕れた一切の事情を考慮すると、亡翔馬の死亡についての慰藉料は、二〇〇〇万円が相当である。
(三) 原告木儀、同トメコの固有の損害(各九〇万円) 原告木儀、同トメコ各九〇万円
証拠(丁一二ないし一七、弁論の全趣旨)によると、原告木儀、同トメコは、亡知子らの近親者として、その葬儀を営んだことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は、それぞれ九〇万円が相当である。
(四) 以上のまとめ
(1) 亡知子の損害 五〇二八万八四八一円
二九二八万八四八一円(右1の(一)の(1))+二一〇〇万円(右1の(二)の(2))=五〇二八万八四八一円
(2) 亡翔馬の損害 三九六六万八八八一円
一九六六万八八八一円(右1の(二)の(1))+二〇〇〇万円(右1の(二)の(2))=三九六六万八八八一円
(3) 原告木儀、同トメコの固有の損害
<1> 原告木儀 九〇万円
<2> 原告トメコ 九〇万円
2 過失相殺
(一) 原告らの損害額の各四割を減額すると、その各賠償を受ける損害額は次のとおりとなる。
(1) 原告弘義、同勝子 各一三四九万三六〇四円
{(五〇二八万八四八一円+三九六六万八八八一円)÷四}×〇・六=一三四九万三六〇四円
(2) 原告木儀、同トメコ 各一四〇三万三六〇四円
{(五〇二八万八四八一円+三九六六万八八八一円)÷四}+九〇万円=二三三八万九三四〇円
二三三八万九三四〇円×〇・六=一四〇三万三六〇四円
3 損害のてん補
亡翔馬の治療費としててん補済みの六万九六一〇円の四分の一(一万七四〇二円)ずつを、原告らの損害額から控除する。
したがつて、原告らの損害は次のとおりとなる。
(一) 原告弘義、同勝子 各一三四七万六二〇二円
(二) 原告木儀、同トメコ 各一四〇一万六二〇二円
4 弁護士費用(原告弘義、同勝子は平成六年(ワ)第八六三四号事件につき各三五〇万円、同年(ワ)第一一二五二号事件につき各三五〇万円、原告木儀、同トメコにつき一二〇万円) 原告らそれぞれに対して一二〇万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、被告らが賠償すべき弁護士費用は、原告らそれぞれに対して一二〇万円が相当である。
五 結論
以上によると、原告弘義、同勝子の本件請求は、被告らに対し、連帯して、それぞれ一四六七万六二〇二円及び被告城東運輸につきこれに対する本件事故の日である平成六年二月八日から、自賠責保険の保険者である被告保険会社については本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成六年九月一三日からいずれも支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求はいずれも理由がない。また、原告木儀、同トメコの本件請求は、被告城東運輸に対し、それぞれ一五二一万六二〇二円及びこれに対する本件事故の日である平成六年二月八日からいずれも支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、自賠責保険の保険者である被告保険会社に対しては、被告城東運輸と連帯して、それぞれ右金員のうち一五〇〇万円及びこれに対する履行請求日の翌日であることが当事者間に争いのない平成六年一〇月二二日からいずれも支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。
(裁判官 松本信弘 石原寿記 宇井竜夫)